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第111話 氷河の塔1

last update Last Updated: 2025-05-31 18:34:01

 北の土地でも最北端の険しい山の上。その頂上に氷の塔は建っている。

 氷河の塔は透き通る氷でできていた。

 薄青い氷が何層にも重なって、神秘的な美しささえ感じる。

 入口の扉は複雑な紋様が彫刻されてる。一体誰が、こんな場所にここまでの建物を作ったのだろうか。

 雪の民たちには近くでキャンプをしてもらって、俺とクマ吾郎は塔に入った。

 氷の塔は美しい外観に対して、内部は極悪仕様のダンジョンだった。

 外から見えた以上に魔物の数が多く、しかも手強い。極低温の環境に加えて、氷属性の魔物が闊歩している。

 何も対策を取っていなければあっという間に凍死しただろう。

「バドじいさんの護符はさすがだな」

 俺はふところに持った炎の護符を触った。

 これまでの登山でも世話になった温熱を発する護符で、半永久的に効果がある。

 人肌程度の温度がずっと続くから、持っているとぽかぽかと暖かい。

「ガウ~」

 クマ吾郎も同じものを腹に取り付けてある。彼女は天然の毛皮があるけれど、それでも足りないくらいの寒さなのだ。 

 温熱だけでなく、氷や冷気の攻撃を防ぐ護符やアクセサリーもたくさん用意してきた。

 氷河の塔は超高難易度ダンジョンではあるが、名前や見た目からして対策が取りやすい。まず間違いなく寒さと氷の魔物が相手になると思って、事前にしっかりと準備をしてきた。 

 これがあのパルティアの謎の洞窟みたいのだと、どんな敵が出るか分かったものじゃないからな。

「グルルッ!」

 クマ吾郎が爪を一閃させて、アイスドラゴンの首をはねた。

 血しぶきは上がるはしから凍りついて、空中で奇妙な形で固まっている。

 アゴ下の逆鱗がちょうどいい感じに無傷だったため回収しておいた。逆鱗は竜鱗の中でもレア部位なのだ。

 世界最強の熊ことクマ吾郎の快進撃で、俺たちは全く無傷である。

 最初は殺気をあらわに襲いかかってきた氷の魔物たちも、今では恐れおののく有り様だ。氷の壁の陰から顔をのぞかせて、目が合うと逃げていってしまう。

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